■農業への提言
第2回:団塊リタイアの智を地方に呼び戻そう!
2007年4月から団塊世代の定年退職が始まった。約800万人の人たちが野に放たれ、自由を謳歌する。団塊の世代、そして団塊ジュニアといわれている塊の世代は、特徴がないといわれているが、丹念に分析してみると「個性の塊」なのである。この世代はたくさんの人がいる。その分、特定な領域に長けた人たちがいっぱいいるため、世代としての尖りがなくなってしまうのだ。
戦前生まれと戦中生まれの人たちは、負けん気と粘りとアイデアで、戦後の日本を復興させた。団塊世代は、これに反発しながらも社会人になると、先輩が築いた様々なものを仕組み(システム)化し、品質の均一化、恒常化を成し遂げたのである。戦後日本の第2成長を担ったといっていい。
その知恵が、2012年3月までの5年間にわたって野に放たれる。それは産業のみならず、学問や行政、果ては芸術に至る全領域に精通したものがである。
この知恵や技術をリタイアさせてしまうのはもったいない。いままさに、都会で得た知恵を地方に還元し、競争力ある自立した地方立国日本をつくるチャンスである。「人的資源の再配分による日本再生」だ。
農業にとって、ニーズ探し→研究開発→生産計画→販売計画→流通対応→プロモーション計画と実施→店頭コントロール→顧客評価、といった一連のマーケティング・お客さまづくり活動を手探りで行っていくほど時間的余裕はない。
だからこそ、多岐にわたって技術や技能を有する団塊の智を活用しない手はない。Iターンでも、Uターンでもいい。智の塊を誘致するのである。リタイアした団塊世代を呼び戻せ!旗を揚げれば必ず戻る!それが団塊だ。
JAMM
第1回:農業変革への提言
明治大学大学院教授・上原征彦氏による「農業変革への提言」
農業の変革
今、農業は大きく3つの段階を経ようとしている。
第1段階は戦前の農業。これは『富国強兵型農業』と言える。この時代は、日本の国力を強めるために食料を増産する必要性があったため、急速に農業人口や農地が増えた時代である。もちろん工業化も進んだけれど、それよりも農業の拡大が重要視されていた。
これが戦後になると変わる。つまり、第2段階へと移行するのだが、これは『技術開発型農業』と言える。この間、日本の農業は固有の発展を遂げてきた。品種改良や緻密な集約農業といった技術で、おそらく世界でも稀に見るほど優れた農産物を作り出してきた。また、この時の農業の役割は、日本の工業の発展の下支えだったということ。しかし、この時代から、現在の農業を想定するような現象が起こった。農業が極めて効率化し、生産能力が上がってきた事により、農業の余剰人口が他の産業に輩出されていったという事である。
しかしまた、変革する時が来た。すなわち、第3段階へと入っていくのである、この段階は『顧客志向型農業』と言える。要は、顧客から要求される農業への変革である。顧客の要求にあわせて、生産から消費までのサプライチェーンを作るということ。ここで初めて、農業界にもビジネスに必要なマーケティング思考が生まれてきたと言える。農業はがらっと変わらなければいけない。
それにはどんな方法があるのか。一つは『他の産業と並ぶだけの力をつける』ということである。すなわち、これまでの工業を下支えする農業から脱却し、産業としての農業を確立することである。農業も他の産業と同様に顧客と結びついてこそ、初めて儲けることができるのである。一流企業を例にとってみても、その費用を負担しているのは誰か。顧客である。その顧客から費用の負担をされなくなったら、その企業は滅びてしまう。要は、『誰が自分のコストを負担してくれているのか』という事を常に考えなくてはビジネスとしては成立しないという事である。言い換えると『利潤動機を持つ』ということ。ここで大切なことは、利潤は欲張りとは違うということである。利潤がなければ、次の投資ができない。すなわち、利潤がなければ発展しないのである。
このように、農業は今、第3段階へと入ってきた。つまり、大きく変革する時が来たのである。
「農業のエジソン」を作る
では、どのように変えていけばいいのか。一つは『農業のエジソン』を作り出す事である。これはどういうことか。
エジソンは技術者であるが、マーケッターとしての能力も持っている人物であった。彼の凄いところは、自分で発明した製品を世の中に出していくのが上手かっただけではなく、他者が発明して売れなかったものを売っていく能力に優れていたというところである。その一つに蓄音機がある。当時の蓄音機の問題は、レコード盤が弱かったために針を置くとすぐに壊れてしまうという点だった。その時、普通の技術者の考え方なら、レコード盤を丈夫にしようと考えるだろう。ところがよく考えてみると、蓄音機は「聴く」ということが目的である。そこで彼は「聴く」という蓄音機の本来的機能にこだわり、レコード盤を円筒式に改良したのである。これにより、蓄音機は大きく普及した。つまり、製品コンセプトを見直したことによって成功したのである。
これは農業においても同様のことが言える。すなわち、『農業から需要を考える』のではなく、『需要から農業を考える』ということ、これは非常に重要なことである。極端な言い方をすれば、『今作っている米が顧客から見て必ずしも良い物ではないかもしれない』という視点を持つことである。つまり、農業のコンセプトを見直すことによって、農業や農業技術のよりよい発展が望めるのである。
新しいビジョンを作り出す
これらの実行のためには何が必要か。それは、新しいビジョンを作り出すことである。その方法にはどういったものがあるのか。
一つは農業の内部からその方向性を出していくという事である。その大きな流れの一つが法人化である。なぜなら法人化には、農業技術あるいは農業生産力と顧客を結びつける力があるからだ。もう一つは他から農業に参入すること。またこれは2つに細分化される。一つは産業レベルでの参入である。例えば、スーパーマーケットや食の流通からの農業参入とか、全く違う産業からの参入が考えられる。もう一つは、人が農業に入ることである。この3つのいずれにおいても、従来の農業とつきあっているだけではこれらは望めない。農業の新しいビジョンを作り出す必要性があるのだ。
こういうビジョンを作るとき、だいたい昔から政策は決まっている。それは、教育から入るということ。逆に言えば、農業者自身がきちんと教育ができる場が必要であるという事だ。もちろん、ビジネス開発も必要。このビジネス開発で必要な事が、産業と人材である。この、教育・産業・人材が結びつくことにより、農業が発展するのである。すなわち、『農業を変えていこう』とする教育が必要なのである。
農業=最先端科学産業
ところで皆さんは農業をどのように捉えているのだろうか。私は、農業は最先端科学産業であると捉えている。なぜなら農業は「自然」という最もコントロールし難い条件を併せ持った産業だからだ。
工業で見てみると、工業は自然条件を遮断する事で発展してきた産業であると言える。つまり、自然遮断型産業である。しかし農業はどうだろう。農業は、自然条件と共に生きるという、最も難しい産業の一つである。つまり、自然開放型産業である。言い換えると、農業ほど刺激的で、アグレッシブな産業はないという事だ。だからこそ、あらゆる技術が集中する。そこで技術の融合が起こる。それはつまり、最先端の科学融合が起こるという事である。その事に気づいた時、農業の刺激の強さに参り、興味を持ち、農業に関わる人が多勢出てくると考えられる。しかし、そういう情報発信をしてこなかったという事が一番の問題なのである。すなわちこれからは、そういった情報発信を行い、そこへ導いていく必要がある。そうしないと、日本の農業の発展は難しいと考える。
【上原征彦:プロフィール】
北海道室蘭出身 1944年生まれ
明治大学大学院教授(グローバル・ビジネス研究科)
日本開発工学会 理事
日本フードサービス学会 前理事
食料・農業・農村審議会 前会長
(株)ジャパン・アグリ-カルチュア・マーケティング&マネジメント 相談役
東京大学経済学部卒業後、1968年に日本勧業銀行入社。約2年間務めた後、財団法人流通経済研究所にてマーケティング及び流通の研究に従事する。その後、明治学院大学経済学部教授やペンシルヴァニア大学客員教授を就任。
著書:『経営戦略とマーケティングの新展開』(誠文堂新光社)、『マーケティング戦略論』(有斐閣)など多数。