第2回:「農」の原点は生活者の「食卓」

農業の生産現場を見ると、まだ生産物(作物)からの発想が多いのではないかと思われます。
しかしながら都市のスーパーやデパ地下、コンビニの棚には「生産物」ではなく、色とりどりのお総菜や加工品が所狭しと並べられています。
これは、生活者が米や野菜、魚や肉類を農畜産物としてではなく「食事」としてとらえていることを意味しているのです。
「食」は味わうだけではなく、命、安心、健康、美容、コミュニケーションの場づくりなど暮らしの原点にあるということです。
だからこそこれからの「物づくり」は、今までの生産者の作物発想から、生活者の「食」発想に転換しなければならないといえます。
そのためには、生産者と生活者が互いに信頼し合う関係を築く必要があるのではないでしょうか。
生産者は、生活者が食に対してどのようなニーズを持っているのか、農業に対してどの程度理解・関心があるのかを知る必要があるのです。
生産者と生活者の「関係づくり」こそがこれからの農業マーケティングに必要ではないでしょうか。この関係づくりに重要なキーワードとして「経験価値マーケティング」があります。
「経験(EXPERIENCE)価値」とは、単に過去に起こった経験を指しているわけではありません。「経験価値」とは、例えば私たちがショッピングをする時、その物の機能・便益やサービス以外にもたらされる魅力をいうのです。つまり、消費する時間の楽しさ、使用時の快適さ、さらには余韻といった付加価値を指しています。言い換えれば参加・体感経験によってもたらされる「心地よい経験」(参照:B・H・シュミット)のことです。
さて農業に戻って、「農」が「食」として生活者にどのような経験の場を与えられるのでしょうか。地元で採れた野菜を提供する農家レストラン、あるいは地場野菜中心の直売所など「農」がもたらす「経験価値」の提供は農業を理解してもらう大きな要因でしょう。「農業」を「食業」ととらえる発想の転換が必要な時が来ているものと思います。

JAMM取締役 林辰男



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