第1回:「市場疲労」から脱出しよう

このコーナーは、弊社取締役・林辰男が最新のマーケティングについてご紹介していきます。特に農業界だけに限ったものではなく広く社会の動向や企業の経営を示唆するものですが、農業経営にも参考となる提言を随時盛り込んで進めていきます。
今回は第1回として社会の変化とマーケティングのかかわり、農業界への提案を少しお話します。

「売れる商品を作る」
55年体制のつけが食、教育、制度まで拡がった結果、金属疲労や制度疲労という言葉が紙面をにぎわしています。
食の世界についても、最近では「雪印」から始まり、「不二家」「ミートホープ」「石屋製菓」など国内の優良企業に相次いで不祥事が起きていることはご承知のことでしょう。また、米国産牛肉や中国産野菜など海外からの輸入食品にも疑問を持たざるを得ません。
食の世界を含めてまさに「市場(マーケット)疲労」が起きているのです。
その要因として挙げられるのは「供給と需要のアンバランス」ではないでしょうか。
55年体制の下では「作れば売れる」時代が長く続きました。農業界も同じように「作ったものを売る」ということでした。
しかしながら経済成長という名目で、食品は次々と自由化され海外から格安の生産物が輸入されました。日本の消費者は「より安い」食品に傾倒し、日本のエネルギー自給率は6年続いた40%をついに割り込み39%となってしまいました。(ただし消費金額ベース自給率は70%を維持)
これが「需要と供給のアンバランス」の1つでもあるのです。
このミスマッチがあちらこちらでほころび始めたのがこの21世紀初頭の現象なのです。農業界以外の産業を見ても同様なのです。
従来の「供給(生産者)サイドの専制主義」が崩壊して「需要者(生活者)サイドの民主主義」になっていることに気がついているかどうかが問題なのです。
農業界にとっても今までのように「作れば売れた」「作ったものを売る」時代から顧客ニーズに合わせた農業すなわち、「売れるものを作る」という方向転換が必要でしょう。
         
「顧客の食の実態を知る」
要は顧客(最終の消費者)から要求される農業への変革が求められるのです。
顧客ニーズを捉えて、生産から消費さらに廃棄(残渣処理)まで含めて生産・販売の仕組みを作ることです。そうしたことから、農業界にもビジネスに必要なマーケティング思考が求められるのです。
「耕す農業、収める農業」から「売れるもの、求められるもの」を作り、ビジネスとしてきちんと利益を得る農業に変革するときが来たのです。
一概に農業の変革といってもピンと来ないかと思います。
そのキーワードは「農業から需要を考える」のではなく「需要から農業を考える」ということです。これはまさにコペルニクス的発想の大転換というほど重要なことです。
従来、米を作っていた、野菜を作っていた、肉牛を飼育していたという発想からそれを消費する側の「食事=食卓」から発想するということへの転換です。
米は「牛丼」や「炊き込みご飯」「カレーライス」「チャーハン」などになるのです。野菜は「サラダ」「肉じゃが」「浅漬け」などになるのです。
この発想が必要なのです。ごぼうと人参の組み合わせで「きんぴら」になるということですね。「きんぴら」から発想する農産物づくりをすると生産の考え方が変わってくるのでしょう。
つまり、農業の視点を変えることによって、農業や農業技術のよりよい発展が望めるのではないでしょうか。
それは「農業」を「食業」とか「生命業」あるいは「環境保全業」まで広く捉えなおしてみることが必要なのです。

「顧客ニーズは耳、目、足で捉える」
さて、これらの実行のために必要なことは何でしょうか。
まず第1は、生活者の食の実態を知ることです。そのためには出来るだけアンテナを拡げ、情報収集を行ったり、デパートやスーパー、コンビニの惣菜売場を観察することがとても大事なのです。
朝食のメニュー、昼食は何を食べているのか、夕食はどのように摂っているかなど「食材」を知ることが大切なのです。
第2は、最終消費者(顧客)と直接対話することです。お客様の声を聴くことは商品改良や次の商品開発の大きなヒントとなります。さらには作り手側のビジョンや作り方を説明し、農業への理解を深めることが重要です。
第3は、異業種ネットワークを持つことです。農業界だけの範囲では捉えきれない社会の動向を知ったり、他企業の顧客対応、危機管理などを身近に学べるからです。
これからの農業再生の道は農業界からのメッセージを都市の生活者に発信し、農業への理解を深めてもらう、生活者一人一人が農業への関心を抱き、生産者と消費者がワントゥワンの関係を築く事が必要ではないかと思います。



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